忍者ブログ

~時の交叉路~

小さな囁きと共に  誰かに届くように  そっと置いてみる    

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【約束】
文字数:1973文字

  しばらくは何も無かった。
  妖精の事など忘れていた。
  夢も見なくなっていた。
  期末テストが近づいていた。
  「冷夏、あたりそうな所教えて」
  雷那が、いつも通りすがってきた。
  テストが近づくと、いつもこれだ。
  「雷那、人をあてにしないでたまには自分で頑張ったら?」
  私は意地悪っぽく言った。
  「ひどーい。この時期にそんな、余裕あるわけないじゃない」
  「どんな余裕がないの?」
  彼が、話に入ってきた。
  「風夢、冷夏ってすごいのよ。いつもテストに出そうな所がわかるの」
  雷那は、転校生の事を『風夢』と呼ぶようになってた。
  「そんなの、先生の話を聞いてれば、だいたいわかるよ」
  「えー、そんなこと無いよ」
 「僕も、知りたいな。テストに出る所」
  う゛っ
  二人して『教えて』の目をして私を見る。
  「わかった。教えてあげるわよ」
  「サンキュ。冷夏」
  あまり自信無いんだけどな・・・。
  この前もあまり―――。
  
  
  終業式が終わった。
  外で、セミが鳴いている。
  「明日から夏休みだ―――」
  教室に戻ってきた雷那が、背伸びをしながら言った。
  「そうだね」
  蒸暑い教室で、下敷きをパタパタしながら答える。
  「夏休み予定ある?」
  雷那が、聞いてきた。
  「別にないけど」
  「それじゃ、私の家で勉強会しようよ」
 って言いながら、私の宿題を写そうって訳?
  「雷那・・・。それ去年も言ってたよね」
  「あはっ。ばれた?」
 悪びれた様子もなく雷那はケロリという。
 「分かった。けど宿題は自分でね」
 冷たく言い放つ。
 雷那はちょっと不機嫌そうだ。
 ガラリ。
 が、そこへちょうど先生が入ってきた。
  「わかった。じゃあ、夏休みになったら、連絡するね」
  雷那は慌てて席に着いた。
  予定なんかないから、いいか。
   
  ざわざわ
  先生が成績表を配り出した。
  「冷夏どうだった?」  
  雷那が、自分の成績表を見ながら聞いてきた。
  「・・・・・・」
  私は、成績表を眺めたまま何も答えなかった。
  「冷夏?」
  雷那が、成績表から目を上げた。
  「え、あ、まあまあかな」
  成績表をしまいながら答える。
  「まあまあか。私はだめ」
  ため息を吐きながら、雷那は言った。
  「次は、もっと頑張れば?」
  後ろで話を聞いていたらしい、彼が話に加わって来た。
  「そう言う、風夢はどうだったのよ?」
  「僕?前と変わらないよ」
  ニッコリとそう言って、成績表を見せてくれた。
  え?
  順位の所に『1』と書いてある。
  「ちょっと、これじゃ、上がりようがないじゃない」
  雷那がピキッて切れそうなのがわかる・・・。
  「そうみたいだね」
  ニッコリとしてる彼を見て、雷那が切れてしまった。
  彼の胸ぐらをぐっと掴んでぶんぶん振った。
  「何へらへらしてんのよ!!私と一緒に冷夏に聞いてたくせに、どうしてこう違うのよ」
  「自分で頑張らないと、よい結果はでないんだよ」
  雷那が、ピタッと振るのをやめた。
  図星を指されて何も言えなくなったのだろう。
  ぷいっとそっぽを向いてしまった。
  「嫌われたかな?」
  彼がつぶやいた。
  「大丈夫よ。明日になれば忘れてるから」
  私は、それとなく答えた。
  
  
  夢を見た―――
  妖精の夢。
  子供の私がいる。
  そして妖精も
  夏の日差しの中、二人で遊んでいる。
  あれは、引越しする前の日だった?
  「やくそく?」
  私と妖精、二人で・・・。
  「うん。約束」
  約束をした。
  ―――――――――――――――!!
  目が覚めた。
  涙が溢れ出る。
  そうだ、あの日・・・
  妖精はこれを待っていたんだ。
  私が約束を思い出すのを
  だから、妖精は私の前に現れた。
  約束のために―――
  
  月が出てる。
  キィ
  窓が開く。
  トンッ
  妖精が、部屋の中に入ってきた。
  今度は、今の姿で。
  「やっと、思い出した?」
  私を見つめるその瞳は、昔と変わらない。
  「うん。約束したよね」
  あの時、二人で交わした約束・・・・。
  『僕を呼んで。君が望むなら、―――』
  「迎えに行くよ」
  そう言って、妖精は私に手を差し伸べてくれた。
  止まりかけた涙がまた溢れてくる。
  「連れてって!!ここはもう、いやなの!!お願い!!連れてって!!!」
  泣きながら叫ぶ私を、彼は静かに抱きしめてくれた。
  なぜだろう?ほっとする。
  彼の腕の中が心地いい。
  
  コンコン  
  はっとした。
  「冷夏?どうしたの、大きな声だして」
  お母さんの声だ。
  カチャ
  慌てて、ドアを開けた。
  「なに?」
  「何って。今大きな声がしなかった?」
  お母さんが不振そうに部屋の中を見渡した。
  「あ、ラジオだよ。ちょっと間違えてボリューム大きくしちゃったから」
  「そう?それならいいけど・・・。早く寝なさいね」
  「はーい」
  お母さんは、部屋に戻っていった。
  
  パタン
  振り返るともう、妖精はいなくなっていた。
  「フゥーム?」
  呼んでも返事はない。
  
    
  あれから、何度か妖精の夢を見た。
  昼も夜も関係なく。
  でも、暑くてすぐ目が覚めてしまう。  
  夢の中でしか、妖精に会えなかった。
  目が覚めると、そこに妖精の姿はなかった。
  私が呼んだ妖精。
  連れてってくれるよね?
  約束守ってくれるよね?
  私が望めば、連れてってくれるって約束したもの。

拍手

PR

コメント