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~時の交叉路~

小さな囁きと共に  誰かに届くように  そっと置いてみる    

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  • 【沈む】
    文字数:886文字
     ガラッッ
      え゛?
      嫌な予感がした・・・。
      案の定、足元が崩れ落ちてゆく。
      ザッザザアアァァァァ
     天と地が回転する。
     周りの石や砂と一緒に、落ちてゆくのがわかった。
      あちこちに痛みが走る。
     そして、後頭部が激痛におおわれる。
      覚えていたのは、そこまでだった・・・・・。   
      
     
      夢を見た―――
      人魚の夢。
      水の中に人魚がいる。
       ゴポッゴポッ
     僕は静かに沈んでいく。
     このまま沈んで、死ぬのかな・・・。
     人魚が僕の手をつかまえる。
     「もう、大丈夫よ」
      ――――――――――!!
     
      目が覚めた。
      あの夢は、何なんだ?
     何で人魚なんか・・・
     
     ぼやけていた頭がだんだんはっきりしてくる。
     ここは?
     結構、古びた家の中みたいだ。
     僕は、部屋の真ん中に敷かれた布団に寝ていた。
     イタッ!
     動こうとするとあちこちが痛んだ。
     手や足に包帯が巻いてある。
      「目が覚めたみたいね」
     女の子の声が聞こえた。
     振り向くとそこにいたのは人魚・・・
     じゃない・・・ 
     人間だ。
     ちゃんと足がある。
     あの夢の人魚そっくりの 女の子。
     クルクルのまき毛。
     クリンとした大きな瞳。
     黒い髪に、青い瞳?
     ハーフ?
      「大丈夫?あの崖から落ちたのでしょう?」
     え・・・と
     僕は一生懸命、頭の中を整理する。
     崖? 
     この町に引っ越してきたばかりで―― 
     家の中より外のほうが気がまぎれると思って ・ ・ ・
     朝の散歩に森の中に入って・・・
     それで?  
     そうだ、足元が崩れて落ちたんだ。
     「ねえ、名前は?」
     黙ったままの僕に、女の子が聞いてきた。
     !!
     僕は誰なんだ?
     名前が思い出せない―――
     「どうかしたの?」
     女の子が僕の顔をのぞきこむ。
     「僕は誰?思い出せないんだ」
     不安そうに聞いた僕に、その子は笑って答えた。
     「それじゃあね。あなたを『カイ』って呼ぶわ」
     カイ?
     それが僕の名前?
     「君は、誰?」
     「私の名前は深織みおり
     みおり?
     やっぱり、あの人魚と似てる・・・
     やさしい声が。
     ここは、暖かい―――
     なんだか、とても眠い
     「もう大丈夫。ここに居て、いいから」
     やっぱり,この子は人魚なのかな?
     そう言えば、人魚姫って童話があったような ・ ・ ・
     沈む意識の中で、ぼんやりと僕はそう思った。  
     ザン  ザザアァァン
     ―――・・・・・・・―――
     波の音の遠くで人の声が聞こえた気がした。 


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  • 【ドリーム】
     ―――夢を見た―――
      童話の中みたいな  人魚の夢
     なぜ、こんな夢を見るのか知らない。
     人魚は、悲しげにこちらを見つめる。
     美しい人魚が忘れられない。
     なぜか その人魚を知っている。
     夢の中のことなのに―――。




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  • 【バイバイ】
    文字数:1143文字
     ザン  ザザァ
      涼し気な波の音が聞える。
      「ねっ、結構いい所でしょ」
      雷那が別荘を指差しながら言った。
      「風夢は来れなくて残念だけど、二人で思いっきり楽しもうね」
      明るい声の雷那。
      「うん」
      「部屋に行ったら着替えて、海に行こう」
      二人で泳いで楽しんでいるうちに、日は沈みかけてきた。 
      夜の海辺。
      二人で静かに座っていた。
      「冷夏、夢がある?」
      沈黙を破ったのは、雷那の方だった。
      「私ね、夢があるの」
      空を見上げながら、雷那が言った。
      そう言えば、前にそんな事を言っていたような?
      「冷夏もあるでしょ?」
      「別にないよ」
      雷那がはっとしたように、私を見た。
      「冷夏。どこかへ行かないで」
      雷那が消え入りそうな声で言った。
      「え?なに言って・・・」
      「あ、ごめん。変だよね。冷夏が、消えてしまいそうだったから」
      私が消える?
      「戻ろうか?」
      雷那が別荘の方に歩いていった。
      
      「ただいま」
      別荘から帰って、家に着くと誰もいなかった。
      そのまま部屋に行く。
      ザアアァァ
      開けたままの窓から風が入ってくる。
      何かの紙がバラバラになってる。
      パタン
      窓を閉めて、紙を集める。
      何の紙だっけ?
      紙に目をやってはっとした。
      私の夢だったものを見つけた気がした。
      
      
      夢を見た―――
      妖精の夢。
      過去の私がいる。
      夢の妖精も
      夏の光の中で・・・
      かくれんぼをしていた。
      「どこ?フゥーム」
      「レイ。こっちだよ、早く見つけて」
      ―――――――――――――――――!!
      目が覚めた。
      涙が頬をつたう。
      私と遊んだ妖精。
      私を迎えに来た妖精。
      私が見つけた妖精。
      
      月明かりが入ってくる。
      人影がうつる。
      キィ
      窓が開く。
      トンッ
      妖精が入ってくる。
      「おいでよ。一人では、さみしすぎる」
      差し出されたその手をつかめば、きっと行ける。
      夢の中。苦しみも、悲しみもない世界に
      行きたい!!
      だけど・・・
      「ごめんなさい」
      行けない。
      「あなたと行ければ、よかった。だけど、見つけたの。私の夢。だから、行けない」
      妖精が哀しい瞳で見つめる。
      わかってる。
      妖精が、わたしだけをまっていたの。
      私のために、ここに来たの。
      「ごめんなさい」
      その言葉しか出てこない。
      涙が落ちる。
      「なぜ、泣くの?嬉しかった。僕を呼んでくれて・・・」
      サアァァァ
      風が舞う。
      妖精の姿が消えていく。
      もう、引き止める事はしない。
      「さよなら」
      風の中で妖精がそう言ったようにおもえた。
      「バイバイ」
      過去の夢・・・。
      私の悲しみが妖精を呼んだ。
      
      
      夏休みが終わった。
      始業式が終わって教室に戻ってきた。
      「どうだった?夏休み」
      雷那が聞いてきた。
      「楽しかったよ。ねえ、そう言えば秋月君の姿が見えないけど?」
      私はなんとなく気になっていた。
      「秋月君?誰それ?」
      え?
      「1学期に転校してきたじゃない」
      「夏休みボケ?そんな人いないよ」
       
      そうか、彼は妖精だから、戻ったんだ。
      夢の空間に
      初めから、いるはずのなかった人だから・・・


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  • 【約束】
    文字数:1937文字

      しばらくは何も無かった。
      妖精の事など忘れていた。
      夢も見なくなっていた。
      期末テストが近づいていた。
      「冷夏、あたりそうな所教えて」
      雷那が、いつも通りすがってきた。
      テストが近づくと、いつもこれだ。
      「雷那、人をあてにしないでたまには自分で頑張ったら?」
      私は意地悪っぽく言った。
      「ひどーい。この時期にそんな、余裕あるわけないじゃない」
      「どんな余裕がないの?」
      彼が、話に入ってきた。
      「風夢、冷夏ってすごいのよ。いつもテストに出そうな所がわかるの」
      雷那は、転校生の事を『風夢』と呼ぶようになってた。
      「そんなの、先生の話を聞いてれば、だいたいわかるよ」
      「えー、そんなこと無いよ」
     「僕も、知りたいな。テストに出る所」
      う゛っ
      二人して『教えて』の目をして私を見る。
      「わかった。教えてあげるわよ」
      「サンキュ。冷夏」
      あまり自信無いんだけどな・・・。
      この前もあまり―――。
      
      
      終業式が終わった。
      外で、セミが鳴いている。
      「明日から夏休みだ―――」
      教室に戻ってきた雷那が、背伸びをしながら言った。
      「そうだね」
      蒸暑い教室で、下敷きをパタパタしながら答える。
      「夏休み予定ある?」
      雷那が、聞いてきた。
      「別にないけど」
      「それなら、家の別荘に来ない?」
      え?
      「別荘なんてあったけ?」
      「親戚の人に、今年だけ貸してもらえるの。くる?」
      別荘かぁ。どうしようかな・・・。
      「海のそばで、眺めもいいよ。風夢も来るって」
      「いこうかな」
      ガラリ
      先生が入ってきた。
      「ほんと?じゃあ、夏休みになったら、連絡するね」
      雷那は慌てて席に着いた。
      予定なんかないから、いいか。
       
      ざわざわ
      先生が成績表を配り出した。
      「冷夏どうだった?」  
      雷那が、自分の成績表を見ながら聞いてきた。
      「・・・・・・」
      私は、成績表を眺めたまま何も答えなかった。
      「冷夏?」
      雷那が、成績表から目を上げた。
      「え、あ、まあまあかな」
      成績表をしまいながら答える。
      「まあまあか。私はだめ」
      ため息を吐きながら、雷那は言った。
      「次は、もっと頑張れば?」
      後ろで話を聞いていたらしい、彼が話に加わって来た。
      「そう言う、風夢はどうだったのよ?」
      「僕?前と変わらないよ」
      ニッコリとそう言って、成績表を見せてくれた。
      え?
      順位の所に『1』と書いてある。
      「ちょっと、これじゃ、上がりようがないじゃない」
      雷那がピキッて切れそうなのがわかる・・・。
      「そうみたいだね」
      ニッコリとしてる彼を見て、雷那が切れてしまった。
      彼の胸ぐらをぐっと掴んでぶんぶん振った。
      「何へらへらしてんのよ!!私と一緒に冷夏に聞いてたくせに、どうしてこう違うのよ」
      「自分で頑張らないと、よい結果はでないんだよ」
      雷那が、ピタッと振るのをやめた。
      図星を指されて何も言えなくなったのだろう。
      ぷいっとそっぽを向いてしまった。
      「嫌われたかな?」
      彼がつぶやいた。
      「大丈夫よ。明日になれば忘れてるから」
      私は、それとなく答えた。
      
      
      夢を見た―――
      妖精の夢。
      子供の私がいる。
      そして妖精も
      夏の日差しの中、二人で遊んでいる。
      あれは、引越しする前の日だった?
      「やくそく?」
      私と妖精、二人で・・・。
      「うん。約束」
      約束をした。
      ―――――――――――――――!!
      目が覚めた。
      涙が溢れ出る。
      そうだ、あの日・・・
      妖精はこれを待っていたんだ。
      私が約束を思い出すのを
      だから、妖精は私の前に現れた。
      約束のために―――
      
      月が出てる。
      キィ
      窓が開く。
      トンッ
      妖精が、部屋の中に入ってきた。
      今度は、今の姿で。
      「やっと、思い出した?」
      私を見つめるその瞳は、昔と変わらない。
      「うん。約束したよね」
      あの時、二人で交わした約束・・・・。
      『僕を呼んで。君が望むなら、―――』
      「迎えに行くよ」
      そう言って、妖精は私に手を差し伸べてくれた。
      止まりかけた涙がまた溢れてくる。
      「連れてって!!ここはもう、いやなの!!お願い!!連れてって!!!」
      泣きながら叫ぶ私を、彼は静かに抱きしめてくれた。
      なぜだろう?ほっとする。
      彼の腕の中が心地いい。
      
      コンコン  
      はっとした。
      「冷夏?どうしたの、大きな声だして」
      お母さんの声だ。
      カチャ
      慌てて、ドアを開けた。
      「なに?」
      「何って。今大きな声がしなかった?」
      お母さんが不振そうに部屋の中を見渡した。
      「あ、ラジオだよ。ちょっと間違えてボリューム大きくしちゃったから」
      「そう?それならいいけど・・・。早く寝なさいね」
      「はーい」
      お母さんは、部屋に戻っていった。
      
      パタン
      振り返るともう、妖精はいなくなっていた。
      「フゥーム?」
      呼んでも返事はない。
      
        
      あれから、何度か妖精の夢を見た。
      昼も夜も関係なく。
      でも、暑くてすぐ目が覚めてしまう。  
      夢の中でしか、妖精に会えなかった。
      目が覚めると、そこに妖精の姿はなかった。
      私が呼んだ妖精。
      連れてってくれるよね?
      約束守ってくれるよね?
      私が望めば、連れてってくれるって約束したもの。



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  • フォールドリーム::目次

    ー 夢を見た ー
    人魚の夢。

    無くした記憶の向こうで誰かが呼ぶ。
    僕は古ぼけた家で記憶をなくしたまま、女の子と過ごす。


    ~フォールドリーム~

     :ドリーム  00
     :沈む    01
     :水の中   01
     :ナイフ   01
     :バイバイ  01 02
     :水の泡   01
    約5500文字


    ここから先はお遊びも含みます。

    ~番外編~

    01 02
    約1500文字


    登場人物
    カイ
    記憶をなくした主人公。

    深織 (みおり)
    人魚……に見えた女の子。
    ……小説内の描写とかなり違います。イラストは気にしない事をお勧めします。

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