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文字数:1967文字「令夏。次、これ教えて」暑い夏休み。長い夏休み。そして、宿題の夏休み。私は雷那の家にいた。もちろん、3人で勉強会をしている。長かった夏休み、勉強会と称しては雷那の家に集まりそして、遊びほうけていた。おかげで、夏休みも後少し。慌てて本来の目的に戻したのだ。「ん、あーそれはね」教えながら進めるのも疲れる。雷那はほとんど宿題に手を着けていなかったようでほとんどの問題を聞いてくる。私の方は大体終わってる。後少しがなかなか進まない。「で、分かった?」私は一通り説明し、雷那を見る。「えーと・・・・」雷那は私の言ったことを頭の中で整理し理解しようとしている。「ちょっと待って。やってみる」私はその間に自分の宿題を進める。秋月君のほうは黙々と自分の宿題を片付けている。「ふ~疲れた」しばらくして、集中力の切れた雷那がのびをする。「そうだね。ちょっと休憩にしようか」さっきまで自分の宿題に夢中だった秋月君の方も肩を叩いている。「賛成」私も、手を止める。開け放たれた窓から、涼しげな風が入ってくる。「ん~気持ちいい」雷那が窓辺にもたれかかる。クーラーの無いこの部屋で風は唯一の冷房。私も雷那と同じく窓辺に向かう。「ねえ、冷夏。ピアノ弾いてみて」窓の外を見ていた雷那がクルリと私の方を向いて言う。「え?突然、何?」「息抜き。前は弾いてくれたじゃない」確かに前は休憩時間にピアノを弾いていたこともある。「ほら、いこ」そういって、雷那は私の腕を引っ張る。「ちょ、ちょっと」「何?何の話?」話が見えないと言う感じの秋月君。「冷夏ね。ピアノ弾けるんだよ」そういって、廊下に出てピアノのある部屋へ。「ちょっと、私は弾くなんて言ってない」「私は聞きたいな~冷夏のピアノ」うっ。ねだるような雷那の瞳。いつも雷那のこの瞳に弱いんだよね。「分かったわよ。1曲だけね」「わーい」秋月君はだまったままついてきて、私たちのやりとりを見ていた。ポオン。久しぶりに触る鍵盤。響く空気。流れる音楽。覚えてる通りに動く指。透き通る感覚。空を舞う音符。無意識のうちに私は1曲弾き終えていた。「やっぱりきれいだね」「そんな事無い。全然指が動かなかった」自分の欠点は自分が良く知っている。「そうだね。でも、私は好きだな。冷夏のピアノ」また聞きたいという瞳で私を見る。「これでおしまい」もう弾いたりしない。もうピアノには触れない。「そう?まだ弾きたいって顔してる」雷那は私の顔を覗き込みながらピアノに触る。ポオン。・・・・・・「もう、弾かないよ」弾きたいのかもしれない。「どうして」でも「必要ないから」私は笑って答える。「冷夏の夢だったのにね」小さくつぶやいたその声が私の耳に届く。「え?」「なんでもない」雷那はピアノのふたを閉めた。「もうそろそろ休憩は終わりにしようか」秋月君が声をかける。「そうだね」冷夏が答えて部屋を出る。私もその後に続いた。夢・・・だった。ピアニストになるのが。でも、私に才能はない。技術も上達しない。それに、勉強の妨げになる。だから?だから、触れないことにしなくちゃ。でも・・・。でも。弾きたいのかもしれない。離れたくないのかもしれない。ピアノから。夢を見た―――妖精の夢。過去の私がいる。夢の妖精も夏の光の中で・・・かくれんぼをしていた。「どこ?フゥーム」「レイ。こっちだよ、早く見つけて」―――――――――――――――――!!目が覚めた。涙が頬をつたう。私と遊んだ妖精。私を迎えに来た妖精。私が見つけた妖精。月明かりが入ってくる。人影がうつる。キィ窓が開く。トンッ妖精が入ってくる。「おいでよ。一人では、さみしすぎる」差し出されたその手をつかめば、きっと行ける。夢の中。苦しみも、悲しみもない世界に行きたい!!だけど・・・「ごめんなさい」行けない。「あなたと行ければ、よかった。だけど、見つけたの。私の夢。だから、行けない」妖精が哀しい瞳で見つめる。わかってる。妖精が、わたしだけをまっていたの。私のために、ここに来たの。「ごめんなさい」その言葉しか出てこない。涙が落ちる。「なぜ、泣くの?嬉しかった。僕を呼んでくれて・・・」サアァァァ風が舞う。妖精の姿が消えていく。もう、引き止める事はしない。「さよなら」風の中で妖精がそう言ったようにおもえた。「バイバイ」過去の夢・・・。私の悲しみが妖精を呼んだ。夏休みが終わった。始業式が終わって教室に戻ってきた。「どうだった?夏休み」雷那が聞いてきた。「楽しかったよ。ねえ、そう言えば秋月君の姿が見えないけど?」私はなんとなく気になっていた。「秋月君?誰それ?」え?「1学期に転校してきたじゃない」「夏休みボケ?そんな人いないよ」そうか、彼は妖精だから、戻ったんだ。夢の空間に初めから、いるはずのなかった人だから・・・
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文字数:1973文字
しばらくは何も無かった。妖精の事など忘れていた。夢も見なくなっていた。期末テストが近づいていた。「冷夏、あたりそうな所教えて」雷那が、いつも通りすがってきた。テストが近づくと、いつもこれだ。「雷那、人をあてにしないでたまには自分で頑張ったら?」私は意地悪っぽく言った。「ひどーい。この時期にそんな、余裕あるわけないじゃない」「どんな余裕がないの?」彼が、話に入ってきた。「風夢、冷夏ってすごいのよ。いつもテストに出そうな所がわかるの」雷那は、転校生の事を『風夢』と呼ぶようになってた。「そんなの、先生の話を聞いてれば、だいたいわかるよ」「えー、そんなこと無いよ」「僕も、知りたいな。テストに出る所」う゛っ二人して『教えて』の目をして私を見る。「わかった。教えてあげるわよ」「サンキュ。冷夏」あまり自信無いんだけどな・・・。この前もあまり―――。終業式が終わった。外で、セミが鳴いている。「明日から夏休みだ―――」教室に戻ってきた雷那が、背伸びをしながら言った。「そうだね」蒸暑い教室で、下敷きをパタパタしながら答える。「夏休み予定ある?」雷那が、聞いてきた。「別にないけど」「それじゃ、私の家で勉強会しようよ」って言いながら、私の宿題を写そうって訳?「雷那・・・。それ去年も言ってたよね」「あはっ。ばれた?」悪びれた様子もなく雷那はケロリという。「分かった。けど宿題は自分でね」冷たく言い放つ。雷那はちょっと不機嫌そうだ。ガラリ。が、そこへちょうど先生が入ってきた。「わかった。じゃあ、夏休みになったら、連絡するね」雷那は慌てて席に着いた。予定なんかないから、いいか。ざわざわ先生が成績表を配り出した。「冷夏どうだった?」雷那が、自分の成績表を見ながら聞いてきた。「・・・・・・」私は、成績表を眺めたまま何も答えなかった。「冷夏?」雷那が、成績表から目を上げた。「え、あ、まあまあかな」成績表をしまいながら答える。「まあまあか。私はだめ」ため息を吐きながら、雷那は言った。「次は、もっと頑張れば?」後ろで話を聞いていたらしい、彼が話に加わって来た。「そう言う、風夢はどうだったのよ?」「僕?前と変わらないよ」ニッコリとそう言って、成績表を見せてくれた。え?順位の所に『1』と書いてある。「ちょっと、これじゃ、上がりようがないじゃない」雷那がピキッて切れそうなのがわかる・・・。「そうみたいだね」ニッコリとしてる彼を見て、雷那が切れてしまった。彼の胸ぐらをぐっと掴んでぶんぶん振った。「何へらへらしてんのよ!!私と一緒に冷夏に聞いてたくせに、どうしてこう違うのよ」「自分で頑張らないと、よい結果はでないんだよ」雷那が、ピタッと振るのをやめた。図星を指されて何も言えなくなったのだろう。ぷいっとそっぽを向いてしまった。「嫌われたかな?」彼がつぶやいた。「大丈夫よ。明日になれば忘れてるから」私は、それとなく答えた。夢を見た―――妖精の夢。子供の私がいる。そして妖精も夏の日差しの中、二人で遊んでいる。あれは、引越しする前の日だった?「やくそく?」私と妖精、二人で・・・。「うん。約束」約束をした。―――――――――――――――!!目が覚めた。涙が溢れ出る。そうだ、あの日・・・妖精はこれを待っていたんだ。私が約束を思い出すのをだから、妖精は私の前に現れた。約束のために―――月が出てる。キィ窓が開く。トンッ妖精が、部屋の中に入ってきた。今度は、今の姿で。「やっと、思い出した?」私を見つめるその瞳は、昔と変わらない。「うん。約束したよね」あの時、二人で交わした約束・・・・。『僕を呼んで。君が望むなら、―――』「迎えに行くよ」そう言って、妖精は私に手を差し伸べてくれた。止まりかけた涙がまた溢れてくる。「連れてって!!ここはもう、いやなの!!お願い!!連れてって!!!」泣きながら叫ぶ私を、彼は静かに抱きしめてくれた。なぜだろう?ほっとする。彼の腕の中が心地いい。コンコンはっとした。「冷夏?どうしたの、大きな声だして」お母さんの声だ。カチャ慌てて、ドアを開けた。「なに?」「何って。今大きな声がしなかった?」お母さんが不振そうに部屋の中を見渡した。「あ、ラジオだよ。ちょっと間違えてボリューム大きくしちゃったから」「そう?それならいいけど・・・。早く寝なさいね」「はーい」お母さんは、部屋に戻っていった。パタン振り返るともう、妖精はいなくなっていた。「フゥーム?」呼んでも返事はない。あれから、何度か妖精の夢を見た。昼も夜も関係なく。でも、暑くてすぐ目が覚めてしまう。夢の中でしか、妖精に会えなかった。目が覚めると、そこに妖精の姿はなかった。私が呼んだ妖精。連れてってくれるよね?約束守ってくれるよね?私が望めば、連れてってくれるって約束したもの。 -
文字数:979文字
あれから、なぜか3人で帰る事が多くなった。「冷夏、帰ろうよ」雷那がいつものようにそう言ってきた。「あ、ちょっと待っててくれる?日誌を書いて、職員室に持っていくから」黒板を消し終わった私は雷那の方を見ていった。雷那は私の席に座っている。「日誌は書いてあるよ」「ありがと、雷那」私は、なるべく急いで職員室に行った。雷那は教室で待っててくれてる。「水城」急いでいたのに先生に、呼び止められてしまった。しばらく先生とお話タイムになった。いつ、職員室を出たのか覚えていない。「おそーい。何してたの?」気がつくと、雷那が怒った顔をしていた。雷那の隣には転校生がいる。「先生に、呼びとめられてて・・・・」ボーとした頭で答える。「どうかした?元気がないみたいだけど」え?そう言ったのは転校生の方だった。「先生に何か言われたの?」雷那も心配そうに言ってきた。「別になんでもないよ」にっこりと笑って答えた。「そう?気にしてないんだ。じゃ、帰ろ。ハイ、冷夏のかばん」雷那は私にかばんを差し出した。「ありがと」先生、なんて言ってたっけ?夢を見た――妖精の夢。幼い私がいる。そして、妖精も・・・・。私が妖精を呼んでる。「・・・・・ム・・・。フー・・・。フゥー・・・ム」――――――――――――――!!目が覚めた。涙がこぼれ落ちる。フゥーム・・・・。あの頃読んだ童話の中の名前。その名前で妖精を呼んでた。今夜も月が出てる。窓を開けてみた。キィかすかな音がした。妖精はそこにいた。月の光の中で、こちらを見ている。樹の枝に妖精はもたれていた。あの頃と同じ、子供のままの姿で・・・・。「思い出した?」妖精は、哀しげな瞳で私を見つめる。私は何も言えなかった。「まだ、みたいだね」妖精の瞳が揺れる。まだ?何?何を思い出せばいいの?ザアァァァァ風が樹々達を揺らす。また、消えてしまうの?妖精が、月の光に溶けていく。「待って、待ってよ!!フゥーム・・・」彼が消えてく瞬間こっちを見たように思えた。それは、気のせいだったのだろうか?フゥーム―――パタパタッ風にカーテンが揺れてる。朝の光が入り込んでくる。夢?フゥームの事は?あっフゥーム?フウム・・・ふうむ・・風夢 ・・・・風夢 )!!私が気づくように?あれは夢じゃなかったの?なぜ子供のままの姿をしていたんだろう?妖精は何を待っているんだろう? -
文字数: 1159文字夢を見た――妖精の夢。小さな私がいる。そして、妖精も「キャハ、・・・フフフ・・」「ク・・・スク・・・ス」――――――――――――― !!目が覚めた。涙が止まらない。ああ、そうだ妖精は・・・・なぜ、忘れていたのだろう。窓から月明かりが入ってくる。その中に人影がうつる。私は窓に近づいた。キィ窓が開く。開いた窓から彼が見える。庭の木の枝にすわって、月の光をまとう。人とは思えないほどキレイあの時と同じ・・・だから、私は妖精だと思った。人とは思えなくてまるで、この世のものではないように思えた。「思い出した?」彼が私を見た。「まだ、みたいだね」彼の瞳が、悲しそうにゆれる。まだ?何が?何を思い出すの?ザアァァァァ風が、樹をゆらす。風に溶けるように彼の姿が揺れる。彼の姿が消える・・・「まって」聞こえなかったのだろうか?彼はそのまま風の中に消えていった。「いつまで寝てるの。いい加減に起きなさい。」お母さんの声で目が覚めた。夢?妖精の事も?すべて・・・・・・・?「いつまで勉強していたのか知らないけど、いい加減にしなさいね」「うん。わかってる」ボーとした頭で答える。私の頭のなかは、昨日の夢の事でいっぱいだった。なぜ彼が今、目の前に現れたのだろう。約束って何?子供の頃、妖精と何をして遊んでたっけ?妖精の名前は、なんだっけ?教室でボーとしながら外を見つめていると、「おはよん」うわっルン と、した雷那の顔が、目の前にぬっと現れた。「何よ、そんなに驚く事ないじゃない」ちょっとムッとしながら、雷那は顔を私にぐっと近づけて来た。「昨日、彼と何かあった?」「え?何が?」私が目をパチクリさせると、「何とぼけてるのよ。彼、さっきから冷夏の事見てるよ」え?振り返るとたしかに転校生がこちらを見ていたようだ。「彼は、ダメだよ。私が・・・」まずい・・・。この様子だと転校生と私の間に何かあったって誤解してるらしい。「気のせいじゃないの?昨日はずーと黙っていただけだよ。」「ホントに?」疑わしいって目をして雷那は私をじっと見た。「ほんとだよ」私も、雷那をじっと見た。「なぁーんだ。そう言えば冷夏ってば人嫌いだもんね」何とか、わかってくれたみたいだ。雷那は、きゅうにニッコリした顔になって、「ね、冷夏これ教えて、今日あたるの」そう言って雷那は私の机にノートをひろげた。( 本当はこれを聞きに来たのね )「どれ?」頭の上で声がした。ひょいっと顔を覗かせたのは、あの転校生だった。「教えてくれるの?」雷那は嬉しそうに言った。「ああ、そのつもりだけど」「あのね、ここなんだけど・・・・」「ここは・・・・・・・・」私はそんな二人をボーッと見ながら、昨日の事を考えていた。転校生は昨日の事は何も言わなかった。彼は妖精なんだろうか?こうして見てると普通の人みたい。