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~時の交叉路~

小さな囁きと共に  誰かに届くように  そっと置いてみる    

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【バイバイ】01
文字数:868文字
 バシャン パシャ
 水がはねる。
 その中に深織がいる。
 深織は今日も、海で泳いでいる。
 それを浜辺で見ている僕。
 綺麗な深織。
 水が深織の周りでキラめく。
 やさしい時間が、ゆっくりと進んでゆく。
 
 「カ――イ」
 深織が、海から上がってきた。
 「何ボーとしてるの?」
 クリンとした大きな目で僕をのぞき込む。
 「別になんでもないよ」
 「そう?」
 深織は、髪を拭きはじめる。
 「もう戻ろう。風が冷たい」
 そう言って、僕は家のほうに歩き出した。 
 ―――――・・・ミ・・・・――――
 海の向こうから声が聞こえたきがする。
 誰かが僕を呼んだ?
 ―――――――――
 振り返ろうとした時
 「カイ!!」
 深織が僕に抱きついてきた。
 「行かないで!!ずーとここにいて」
 え?
 「深織、何言って・・・」
 深織は、いっそう強く抱きついてきた。
 「どこにも行かないでっ!!」
 こんな深織は、初めてだった。
 いつも、明るくてやさしい深織。
 今は、子供みたいに泣きじゃくっている。
 「大丈夫だよ。どこにも行かないから」
 僕はなだめるように、そう言った。
 それでも、深織は僕を抱きしめたままだった。
 「大丈夫。ここにいるから。どこにも行かないよ。どこにも・・・」
 何度も深織に、そう言い聞かせる。
 繰り返し・・・  繰り返し・・・
 気がつくと深織は、僕の腕の中で眠っていた。
 僕は、深織を抱いて家に戻った。
  静かな水の中のような時は、いつまで続くだろう。
 
 
 ――――――
 今夜は、眠れない。
 ザ――ン  ザザッ――ン
 遠くで波の音が聞こえる。
 部屋の中は暗く、何も見えない。
 夜の静寂が辺りを包み込む。
 カタン
 障子戸が開いて、深織が入ってきた。
 深織の手に光るものが見えた。
 「眠れないの?」
 深織が僕に聞いてきた。
 「深織も?」
 僕は聞き返す。
 「うん」
 しばらくの沈黙。
 目が暗闇になれてくる。
 「殺さないの?」
 僕は深織に聞いた。
 深織はたぶん、僕を殺すためにこの部屋に来たんだ。
 深織が驚いた顔を上げる。
 動揺した瞳を僕に向ける。
 そして、静かに銀のナイフを持った手を、振り上げる。
 その手が、震えているのがわかる。
 あの『夢』のように
 ザン
 波の音と同時に、僕に向かってナイフを・・・
 ――――――――――

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